恐山が他の霊場と決定的に異なるのは、一歩足を踏み入れるだけで網膜に焼き付く凄まじいランドスケープの落差です。境内順路に沿って歩き始めると、そこは白く枯れた岩肌が露出した「無間地獄」「重罪地獄」「血の池地獄」などの地獄谷。硫黄の噴煙が地面からシューシューと音を立てて噴出し、草木一本生えない殺伐とした光景が広がります。
その荒涼たる死の世界を抜けた先、突如として視界が開ける場所に広がるのが宇曽利山湖と極楽浜の絶景です。強酸性のカルデラ湖である宇曽利山湖は、不純物が極めて少ないため、光の屈折によって南国の海を思わせる神秘的なエメラルドグリーンに輝きます。真っ白な火山灰の砂浜(極楽浜)に静かに打ち寄せる波、そして浜辺に立てられた色鮮やかな風車がカラカラと回る様は、まさに現世にいながら「浄土」を垣間見るような圧倒的カタルシスを参拝者にもたらします。この「地獄から極楽へ」というドラマチックな空間構成こそが、恐山観光の見どころの核心です。
さらに見逃せないのが、参道脇にひっそりと佇む湯小屋群です。恐山は開山祖である慈覚大師円仁が発見したと伝わる名湯でもあり、境内に自噴する恐山温泉の泉質と入り方を理解しておくことで、参拝の体験価値は何倍にも跳ね上がります。
境内には「薬師の湯」「古滝の湯」「冷えの湯」「花染の湯」という4つの湯小屋があり、入山料(700円)を払っていれば誰でも無料で入浴可能です。泉質は含硫黄-ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉で、pH2.0前後の強烈な強酸性。白濁した湯からは強い硫黄臭が立ち込め、切り傷や皮膚病、神経痛への効能は折り紙付きです。
ただし、入湯にあたっては厳格なマナーが存在します。ここはレジャー施設ではなく「参拝前の身を清める禊(みそぎ)の湯」です。石鹸やシャンプーの使用は自然保護と環境配慮のため厳禁。湯船に浸かる前にしっかりと掛け湯をし、強酸性で肌を傷めないよう長湯を避けて短時間で上がるのが正しい作法です。貴金属(特に銀製品)は硫黄成分で一瞬にして真っ黒に変色するため、脱衣所に持ち込まず事前に外しておく必要があります。