音楽ファンの間で長年根強く信じられているのが、「自分で作詞作曲して歌っているアーティストこそが本物であり、他人の曲を歌う歌手は劣っている」という純血主義的な言説です。しかし、音楽制作の現場取材を進めると、この常識には大きな誤解と盲点が含まれています。
第一の盲点は、「アレンジャー(編曲家)の決定的貢献」の見落としです。シンガーソングライターが自宅でギターを弾き語りしながら作ったシンプルなコードとメロディを、グラミー賞級のアンサンブルや現代的なビートへと昇華させているのは熟練の音楽プロデューサーやアレンジャーの手腕です。荒井由実における松任谷正隆氏、宇多田ヒカルにおける名エンジニア陣のように、サウンドの革新性はチームプレイによって担保されています。クレジット上は「作詞作曲:本人」とだけ表記されるため、世間は一人の天才の業と錯覚しがちですが、実際には高度な共同作業の結晶なのです。
第二の盲点は、近年の世界標準である「コライティング(Co-writing:共同楽曲制作)」の普及です。海外ではエド・シーランやテイラー・スウィフトといった世界的SSWであっても、複数のトップクリエイターとセッションしながらメロディやビートを磨き上げる手法が定着しています。日本でも若手を中心にコライティングが急速に浸透していますが、いまだに一部のネット掲示板では「全部一人で作っていないからゴーストライターがいる」といった的外れなバッシングが見受けられます。現代のセルフプロデュースとは、すべてを抱え込むことではなく、「自らのアイデンティティを保ちながら最適なクリエイターを束ねる統率力」を意味しているのです。