音楽ファンを最も驚かせたのは、2023年春に突如として実施された名義の刷新でした。10代前半から親しまれてきた「SASUKE」というアイコニックな看板をなぜ下ろし、飾りのない本名「原口沙輔」を選び取ったのか。その深層には、メディアや大人たちが作り上げた「天才キッズ」という巨大なラベリングに対する葛藤と、作家としての自立がありました。
当時のインタビューや各種メディアでの発言、関係者の証言を丹念に紐解くと、SASUKE時代の終盤において彼が抱いていた違和感の輪郭が浮かび上がります。10代中盤の彼は、類まれなフィンガードラムのスキルや作編曲能力を武器に脚光を浴びたものの、絶えず付きまとったのは「若さという付加価値」でした。商業音楽の文脈では、年齢が若いこと自体が強力なプロモーション材料として機能します。しかし、本人が求めていたのは、年齢という色眼鏡を完全に外した先にある「純粋な音響構築とその強度」への評価でした。
所属事務所からの独立とエージェント契約の終了というキャリアの転換点を迎えた際、彼は過去の成功体験を自らの手で解体する道を選択しました。本名を掲げるという行為は、逃げ場を完全に断ち、すべての制作責任を自らの肉体ひとつで引き受けるという宣戦布告に他なりません。商業市場の都合に合わせたポップミュージックの枠組みを脱ぎ捨て、より生々しく挑戦的な音響へアクセスするための必然的な手続き、それこそが改名の本質でした。