音楽史に名を刻む天才音楽家と呼ばれる理由を紐解く上で、近年の脳機能イメージング(fMRI)研究が示したデータは極めて示唆に富んでいる。神経科学の学術報告によると、7歳以前から高度な音楽教育を受けた演奏家の脳梁(左右の半球を連絡する神経線維の束)は、非音楽家に比べて平均10〜15%太いことが判明している。これにより、論理的構築を担う左脳と、空間把握や情緒を司る右脳との間で、毎秒膨大な情報が超高速で行き交う回路が形成されているのだ。
さらに注目すべきは、聴覚野に位置する「側頭平面(Planum Temporale)」の極端な左右非対称性である。一般的な成人の場合、この部位の左右差はわずかだが、いわゆる神童と呼ばれる音楽家たちでは左側の側頭平面が異常な発達を遂げているケースが多い。これが、音の高さを絶対的な周波数として瞬時に言語記号化する能力、すなわち「絶対音感」の発現と直結している。
ただし、現場の音楽教育専門家や脳科学者は口を揃えて「絶対音感の保持=天才ではない」と断言する。絶対音感を持つ者は東アジア圏の早期教育受講者を中心に約1万人に1人から数百人に1人の割合で存在するが、その大半は既存の音階を識別できるに過ぎない。歴史に名を残すレベルの天才音楽家の共通点と特徴は、絶対音感を土台としつつ、音を「色彩」「感情」「建築的構造物」として知覚する共感覚(シナスタジア)的認知と、頭頭葉での多層的な並列処理能力を兼ね備えている点にある。