『曽根崎心中』は完全なフィクションではなく、元禄16年(1703年)4月7日に大坂・堂島新地天満屋の遊女「はつ」と、内本町醤油商平野屋の手代「徳兵衛」が露天神社の森で心中した実際の事件を題材にしています。
事件の一報を受けた劇作家・近松門左衛門は、すぐさま筆を執り、わずか半月余りという驚異的なスピードで人形浄瑠璃の台本を書き上げました。同年5月7日、道頓堀の竹本座で初演されると、庶民の間で空前の大ヒットを記録します。
当時の大坂では心中事件が頻発していましたが、近松は単なるスキャンダルとしてではなく、理不尽な現実に抗い愛を全うした二人の魂の救済として描き出しました。あまりの人気の過熱ぶりに後追い心中が相次いだため、幕府が心中物の劇上演や心中自体の取り締まりを強化したという逸話も残されています。