「目が泳ぐ」とは、動揺、やましさ、恐怖、極度の気まずさなどを感じた際に、視線が定まらず落ち着きなくあちこちに移動する様子を指す慣用句です。水中で捕らえられそうになった魚が逃げ場を失ってあちこちへ激しく泳ぎ回る姿になぞらえた表現とされており、古くから日本人の対人観察眼の中で言語化されてきました。
脳科学および認知心理学の観点からこの現象を解剖すると、視線が定まらない理由は「認知的負荷(コグニティブ・ロード)の急激な増大」と「自律神経系の急変」にあります。
人間が平常心で会話をしている際、前頭前野は相手の言葉を理解し、適切なリアクションを返すための統制を行っています。しかし、予期せぬ質問を投げかけられたり、隠していた秘密に触れられたりすると、脳の扁桃体が強い脅威・警戒信号を発信します。その結果、交感神経が一気に優位となり、心拍数の上昇とともに「危機回避のために周囲の状況を素早くスキャンしようとする動物的防衛本能」が作動します。
同時に、脳内では「言い訳のストーリーを構築する」「発言の矛盾をチェックする」「相手の表情から怒りを測る」というマルチタスクが一瞬で発生します。この過剰な情報処理負荷に脳が耐えきれなくなったとき、眼球運動の統制が崩壊し、外見上「目がキョロキョロする原因」となって現れるのです。