松坂桃李という名前は本名であり、名付け親であるご両親の深い愛情と知性が込められています。特筆すべきは、父親と母親がそれぞれ異なる中国の古典から意味を汲み取り、奇跡的に同じ「桃李」という文字に想いを重ね合わせたという点です。
まず、父親が引用したのは、前漢の歴史家・司馬遷が著した『史記』李将軍列伝にある有名な故事成語「桃李不言下自成蹊(とうりものいわざれども、したおのずからみちをなす)」です。
桃や李(すもも)の木は、何も言葉を発して自己アピールすることはないが、美しい花と美味しい実に惹かれて人々が集まり、その木の下には自然と小道ができる——転じて「徳望のある優れた人物のもとには、自ら誇示せずとも自然と人が集まり慕われるようになる」という意味を持ちます。父は息子に対し、「言葉巧みに自分を飾るのではなく、徳のある誠実な人間になってほしい」という願いを込めました。
一方、母親が典拠としたのは、中国の詩集解説書『韓詩外伝』にある「桜梅桃李(おうばいとうり)」の教えです。桜、梅、桃、李がそれぞれ独自の美しい花を咲かせるように、「他者と自分を過剰に比較することなく、自分自身の個性を大切に花を咲かせてほしい」という温かなメッセージが込められています。
この二つの願いが見事に融合した「桃李」という名は、まさに現在の松坂さんの謙虚でありながら芯の強い生き様そのものを体現していると言えます。