「物をつまむと力が入らない」「ドアノブを回すと激痛が走る」といった症状を訴える人が増えています。親指の付け根が痛い理由の根底にあるのは、親指特有の可動域の広さと、それに伴う力学的ストレスの集中です。人間の親指は他の4本の指と向かい合って動く「対立運動」ができる構造になっており、握る・つまむ・ひねるといった複雑な動作のほぼすべてで支点として酷使されます。
手の親指の付け根に生じる疾患として、臨床現場で圧倒的に多く確認されるのが母指CM関節症とドケルバン病腱鞘炎の2つです。
母指CM関節症は、親指の付け根にある第1中手骨と大菱形骨の間にある関節(CM関節)の軟骨が経年劣化やすり減りによって摩耗し、骨同士が直接ぶつかり合って炎症を起こす病気です。特に40代以降の女性に多発し、閉経に伴う女性ホルモン(エストロゲン)の減少によって関節包や腱の柔軟性が低下することが発症トリガーになります。初期は「ペットボトルのキャップを開けるときだけ痛む」程度ですが、放置すると骨棘(骨のとげ)が形成され、関節が外側に突き出るように変形して元に戻らなくなります。
一方のドケルバン病腱鞘炎は、手首の親指側を通る2本の腱(短母指伸筋腱・長母指外転筋腱)と、それらを束ねているトンネル状の「腱鞘」が擦れ合い、肥厚・炎症を起こす疾患です。スマートフォンの大型化による片手操作の常態化や、長時間のパソコン作業、赤ちゃんの抱っこを繰り返す産前産後の女性に頻発します。手首を小指側に倒した状態で親指を動かすと強い痛みが走るのが決定的な特徴です。