本作を観た多くの鑑賞者が突き当たる最大の謎が、「安室は最初から七海を陥れる黒幕だったのか」という点です。七海の夫の浮気疑惑を浮上させ、結果的に彼女を離婚へと追いやった人物を手配したのも安室でした。一見すると、七海を孤立させて意のままに操り、高額報酬が動く危険な仕事へと誘い込んだ冷酷な悪党にも見えます。
しかし、劇中の描写を丹念に追うと、安室という人物は「依頼された欲望をただ効率的に処理する装置」に過ぎないことが分かります。七海を騙そうとする悪意があるわけではなく、かといって彼女を心から救済しようとする善意に満ちているわけでもありません。彼は現代の貨幣経済が生み出した影のような存在であり、客が金を払えばサクラも集め、家庭崩壊の工作も行い、死を望む富裕層に「添い寝の相手」をあっせんします。悪意がないからこそ、彼の存在は底知れぬ不気味さと、同時に奇妙な救いをもたらします。