日本国内における刺青・タトゥーに対する厳しい入場規制は、長年にわたり公衆浴場やリゾート施設で維持されています。多くの温泉や銭湯が掲げる「刺青・タトゥーのある方の入浴お断り」の看板は、元を辿れば1970年代から1980年代にかけて激化した暴力団抗争の時代に、一般客に危害や恐怖心を与えないための防衛策として導入されたものです。
旅館業法上、ホテルや旅館は正当な理由がない限り宿泊を拒否できませんが、大浴場などの共同スペースの利用については、施設側が利用規約に基づいて制限を設けることが法的に認められています。観光庁による実態調査でも、タトゥーのある外国人観光客の増加に伴い「シールで隠せば入浴可能」「貸切風呂のみ許可」といった柔軟な対応を取る施設が一部で増えたものの、「背中一面の和彫り」に対しては、依然として9割以上の温浴施設が完全拒否の姿勢を崩していません。
インバウンドで訪れる外国人のワンポイントタトゥーと、ヤクザカルチャーを起源とする「全身の和彫り」の間には、日本人の心理において今なお深淵な心理的境界線(バウンダリー)が存在します。日本人にとって和彫りは、単なるアートではなく「組織暴力の影」や「反社会的勢力の気配」を即座に連想させる強いスティグマとして機能し続けているのです。