冷たい北の海を、黒い塊が一直線に進む。利尻島沿岸の漁業関係者が目撃したその正体は、まさに宗谷海峡を泳いで渡るエゾヒグマだった。「流木かと思ったが、水しぶきをあげて力強く泳いでいた」。第一発見者の漁船船長は、当時の驚きを隠さない。陸上での圧倒的な走力に加え、長距離を泳ぎ抜く能力を兼ね備えた生態は、島々の環境バランスを根本から激変させつつある。
環境省や北海道庁の分析によれば、本島における個体群密度の高まりや餌資源を求めた移動が、海流を越える決死の泳ぎを促している可能性がある。流氷の時期だけでなく、波の穏やかな季節にも沖合を渡る行動が確認されたことは、野生動物の専門家にとっても大きな衝撃となった。