メルエムは誕生の瞬間から、捕食と支配の頂点として君臨していた。他者の命を奪い、己の糧とすることに何の疑問も抱かない圧倒的暴力。しかし、東ゴルトーの宮殿で巡り会ったコムギは、その生存本能のロジックを根本から狂わせることになる。腕力も政治力も持たない盲目の少女が、軍儀という盤上の世界においてのみ、全能の王を幾度となく打ち負かしたのだ。
暴力で屈服させられない存在に直面した時、王の内に生まれたのは怒りではなく、計り知れない困惑と好奇心だった。己の強さの定義が音を立てて崩れ去る感覚。相手の息遣い、駒を指す指先の震え、そして勝利の瞬間に見せる誇り高き表情。王は初めて、他者の存在を「個」として認識し始めたのである。