日本国内で計画的陳腐化を語る上で外せないのが、ネットスラングとして定着した「ソニータイマー」という言葉です。「ソニー製品は保証期間(1年)が過ぎると、まるでタイマーが仕掛けられていたかのように精密に壊れる」という噂は、平成初期のパソコン通信や掲示板サイトから急速に広まりました。
結論から言えば、時限爆弾のように特定の期日で故障を発生させる電子回路を仕込むような不正は存在しません。仮にそのようなプログラムや回路を意図的に埋め込めば、内部告発やリバースエンジニアリングによって露見した際、企業の存亡に関わる致命的なダメージを負うためです。
では、なぜ保証切れ前後の故障が多発するように感じられるのか。製造現場の品質管理データと信頼性工学の観点から検証すると、2つの現実的な要因が浮かび上がります。
1つ目は、工業製品の故障率曲線として知られる「バスタブ曲線」です。製品は使用開始直後の「初期故障期」を過ぎると、故障率が極めて低い「偶発故障期」に入り、一定期間を過ぎると部品の劣化による「摩耗故障期」へと移行します。メーカーは膨大な耐久試験データに基づき、偶発故障期から摩耗故障期へ移行する直前のタイミングを「無償保証期間(通常1年間)」として設定します。統計学的に、保証が切れた後の年数経過とともに故障率が上昇するのは工学的な必然です。
2つ目は、日本の高度な「限界設計(過剰品質の排除)」です。かつての日本製品は「10年使ってもビクともしない」圧倒的な頑丈さを誇りましたが、それは裏を返せば過剰なコストをかけた重厚長大設計でした。激しい国際価格競争に勝つため、各社は目標耐用年数を定めた上で、余分なマージンをギリギリまで削るコストダウン設計を極限まで突き詰めました。その結果、「耐用年数を迎えると全体が一斉に寿命を迎える」という高精度な設計が実現し、皮肉にもそれが消費者側から「意図的なタイマー」と錯覚される要因となったのです。