ナンシー久美の若い頃は、女子プロレスの歴史において特別な輝きを放っていました。当時の大ブームを牽引していた「ビューティ・ペア」(ジャッキー佐藤・マキ上田)の直系後輩として、ビクトリア富士美とともに「ゴールデン・ペア」を結成。レコードデビューを果たすほどのアイドル的人気を博しながらも、空手仕込みのローリング・ソバットなど本格的な足技を駆使する実力派ファイターでした。
ナンシー久美は、団体の絶対的エースであったジャッキー佐藤の付き人を長年務めていました。ジャッキー佐藤のプロ意識とストイックな生き様を間近で学んだナンシー久美は、先輩風を吹かせて後輩を理不尽に威圧することを固く戒めていたのです。
一方、当時の松本香は運動能力に秀でていたわけではなく、同期のライオネス飛鳥や長与千種が頭角を現す中で、完全な落ちこぼれとして扱われていました。試合が組まれず雑用に追われる日々の中で、ナンシー久美が見せるプロとしてのリングマナーや後輩への配慮は、松本香にとって大きな精神的支柱となっていました。後年、ダンプ松本としてクラッシュギャルズと血で血を洗う死闘を展開し、女子プロレス史上最大のブームを巻き起こした原動力の根底には、不遇の時代に見捨てず接してくれた先輩たちの存在があったのです。