蟻塚亮二氏の臨床実績において特筆すべきは、沖縄と福島という、日本が経験した二大激甚地での長期診療です。沖縄協同病院時代には、これまで単なる「老年期のうつ病」や「認知症の周辺症状」として片付けられがちだった高齢者の精神症状が、実は沖縄戦の過酷な体験に起因する晩発性PTSDであることを実証しました。
報道各社の取材や自著の手記において、同氏は「患者が何気ない日常の音や風景から、当時の戦場を鮮明に再体験してしまう苦しみ」を克明に記録しています。戦争トラウマは数十年経過しても風化しないという事実は、日本の精神医学界に大きな衝撃を与えました。
相馬中央病院での活動では、津波で家族を失った遺族や原発事故で故郷を奪われた住民の「震災PTSD」に向き合いました。発災直後の急性期だけでなく、5年、10年と時間が経過した後に深刻化する孤立やアルコール依存、遅発性のフラッシュバックに対し、丁寧な対話と傾聴を中心とした診療モデルを構築しました。