井上氏の経営キャリアにおいて最大の試練であり、最も手腕を発揮した局面が2005年に勃発した楽天による買収提案騒動です。当時、新興IT企業の旗手であった楽天の三木谷浩史会長が、TBSの株式を突如19%超取得し、経営統合を提案しました。
当時、多くのメディア関係者がネット企業の資本攻勢に動揺する中、井上社長は「報道機関としての公共性・独立性が損なわれるリスクがある」として統合提案を拒絶。毅然とした対決姿勢を鮮明に打ち出しました。
井上氏はポイズンピル(新株予約権を用いた買収防衛策)の導入を決議するとともに、法改正を睨んだ「認定放送持株会社体制」への移行をいち早く推進。2009年、TBSは持株会社「東京放送ホールディングス」へと改組し、楽天側は放送法の外資・資本規制などの壁に阻まれる形で買収を断念せざるを得なくなりました。最終的に楽天が保有株式の買取請求権を行使し、法廷闘争を経て株の買い取りが決着。井上氏の戦略的な防衛劇は、日本のM&A史に残る攻防として今も語り継がれています。