時計の針を少し巻き戻そう。彼が切り拓いてきた足跡は、日本のインディー史そのものと言っても過言ではない。かつて大阪プロレスのマットで誕生した「えべっさん」という唯一無二のキャラクター。商売繁盛の神様をモチーフにしたその姿は、観客を爆笑の渦に巻き込みながらも、玄人を唸らせる卓越したレスリング技術に裏打ちされていた。
その後、名乗りを菊タローへと改め、戦場を全日本プロレス、さらには北米の過酷なインディーサーキットへと移していく。言葉も文化も異なる地で、なぜ彼は観客の心を掴み続けることができたのか。鍛え抜かれた受身の美学と、一瞬の間で空気を支配する天性のリズム。笑いとシリアスが紙一重で交錯するそのスタイルは、言葉の壁をいとも簡単に飛び越えた。