前田亜季の表現者としての領域は、実写の映像や舞台だけにとどまらない。声優としての活動もまた、彼女のキャリアにおける大きなエポックメイクである。
特に2003年に放送されたTVアニメ『キノの旅 -the Beautiful World-』での主人公・キノ役は、アニメ史に刻まれる名演として高く評価されている。中性的でありながら思慮深く、どこか達観した眼差しを持つ旅人キノ。前田が吹き込んだ声は、装飾を削ぎ落とした静寂の美徳をたたえており、作品の持つ哲学的でファンタジックな世界観を見事に補完していた。声のみで感情の微細なニュアンスを表現する高い技術は、現在の朗読やナレーションの仕事にも確実に生きている。