遺体発見の翌日、大学病院の法医学教室へと運び込まれた男児の遺体に向き合ったのは、数々の難事件を解剖台の上で鑑定してきたベテランの司法解剖医だった。外傷の有無、胃内容物の消化状況、肺や血液中のプランクトン反応、そして死後経過時間(PMI)の特定。法医学の知見は、死者が残した最期のメッセージを冷徹かつ正確に読み解いていく。
現場を指揮する捜査第一課長のもとには、解剖医から上がった初期所見が即座に届けられた。遺体には目立った防御創がなく、低体温症による凍死や事故死の可能性を単純に肯定できない特異な痕跡が残されていたという。胃の内容物から推定される最終食事時間と、家族が証言する食事のタイミングには明らかなズレが生じていた。
刑事司法・法医学の連携は、感覚的な推理を排し、科学という絶対的な物証で「その瞬間に何が起きたのか」を証明する。現場の土壌成分と父親の衣服に付着していた微物の照合、タイヤ痕の微小破壊分析など、最先端の鑑識技術が動かぬ証拠として積み上げられている。