安野の描く世界の背景には、数学者や科学者のような冷徹な視点と、文人の持つ温かな視線が共存している。一見すると長閑な田園風景や古き良きヨーロッパの街並み。しかし、目を凝らすと遠近法が狂い、登り続けているはずの階段が下りへとつながる不思議な建築物が姿を現す。
彼が用いる透明感のある水彩画の技法は、極細のペン描線を優しく包み込む。過度な主張を抑えた淡い色彩設計だからこそ、描き込まれた異常な視覚構造がジワジワと読者の脳を揺さぶるのだ。不可能な立体を成立させるエッシャー的な騙し絵の手法を取り入れつつも、決して不気味さに落とし込まず、上質なユーモアへと昇華させる。これこそが、国境や言語の壁を容易に飛び越える独特な世界観の核心である。