「月の花」にまつわる情報の氾濫には、メディアやネット記事による長年の誤情報の蓄積が関係しています。最も顕著な例が、太宰治の名作小説『富嶽百景』の一節「富士には月見草がよく似合ふ」の解釈です。
文学愛好家の間でも広く知られている事実ですが、太宰が御坂峠で眺めたのは、夕暮れに黄色い花を咲かせるオオマツヨイグサ(待宵草)でした。植物学上の「月見草」は白からピンクへと変化する別の種ですが、当時の俗称としてマツヨイグサ類全般を「月見草」と呼ぶ慣習があったため、現在でも両者の混同が続いています。
さらに、夜顔(ヒルガオ科)と夕顔(ウリ科)の混同も根強く存在します。夕顔はかんぴょうの原料となるウリ科の蔓植物で、花は夕方に咲くものの翌朝には実を結ぶための農作物に近い存在です。対して、夜のガーデニングや鑑賞用として流通している大輪の花は夜顔(ムーンフラワー)であり、種子に有毒成分を含むため誤食には厳重な注意が求められます。