SNSで爆発的な人気を博した「海に沈む線路」は、そもそも下灘駅の構内線路ではありません。駅から西へ約1kmほど離れた海岸沿いにある個人経営の造船所(修理工場)に設置された舟の引き込み線(斜路・インクライン)です。
この設備は、小型漁船やボートを修理・点検のために海から陸の作業場へ引き揚げたり、修理後に海へ進水させたりするための純粋な産業用作業レールです。引き潮や満潮のタイミングによってレールが透明な海水の中に消えていくように見えたことから、奇跡的な絶景写真として脚光を浴びることになりました。
しかし、このブームは所有者である造船所にとって深刻な被害をもたらしました。作業場である私有地に無断で観光客が立ち入り、作業用のワイヤーや機械に触れる、ゴミをポイ捨てする、業務中の作業員に対して無断でカメラを向けるといったマナー違反やトラブルが多発したのです。
造船所の経営者や地元関係者の苦渋の決断として、「私有地につき立入禁止」という警告看板が多言語で設置され、安全確保と観光客の侵入抑止を目的に水際部分のレールが一部撤去・改修される事態へと発展しました。ネット上で「線路が撤去された」と騒がれた背景には、こうした観光公害に対する現場の防衛措置という切実な理由があったのです。