生理学的な観点から見ると、食欲には「生体維持のための本物の食欲(代謝性食欲)」と「快楽や心理的代償を求める偽の食欲(報酬性食欲・情動性食欲)」の2種類が存在します。胃が物理的に膨らんでいるにもかかわらず食べ物を欲する背後には、生体システムのエラーが潜んでいます。
第一に挙げられるのが、快楽物質であるドーパミンと摂食行動の密接な結びつきです。糖質や脂質を口にすると、脳内の腹側被蓋野から側坐核へドーパミンが放出され、強烈な快感が生まれます。仕事の重圧や人間関係のストレスに晒されると、脳は手軽に快感を得て自らを守ろうとし、エネルギー補給とは無関係に「もっと快楽物質を出せ」と指令を送ります。これが、満腹なのに食べたいストレスの正体です。
第二の要因は、ホルモンバランスの崩壊です。脂肪細胞から分泌される「レプチン」は、脳の視床下部にある満腹中枢を刺激して食欲にブレーキをかける役割を担っています。しかし、糖質の過剰摂取や慢性炎症が続くと、血中のレプチン濃度が高くても受容体が反応しなくなるレプチン抵抗性が生じます。ブレーキを踏んでいるのに車が止まらない状態に陥り、胃がいっぱいでも脳は「まだ足りない」と誤認し続けるのです。
第三に、睡眠不足による食欲増加のメカニズムです。厚生労働省の調査データや国内外の睡眠学会の報告によれば、睡眠時間が5時間未満の人は、7〜8時間睡眠の人に比べて食欲を増進させるホルモン「グレリン」が約15%増加し、満腹ホルモン「レプチン」が約16%減少することが実証されています。夜更かしによって脳の自制心を司る前頭前野の機能が低下すると、深夜に冷蔵庫を開けてしまう行動を理屈で止めることは困難になります。