作品を愛好するファンの間で長年議論されてきたのが、「作中の家は実家をそのまま描いたものなのか」という疑問です。結論から言えば、建物の外観や構造そのものはフィクションとして再構成されたものであり、実際の実家とは大きく異なります。
さくらももこ氏のエッセイ集『もものかんづめ』や初期の手記で赤裸々に語られている通り、現実の生家は「八百屋(青果店)」を営んでいました。1階の通りに面した土間部分には野菜や果物の木箱が並び、奥に居住空間や台所があり、2階に家族の個室があるという、典型的な商店街の自営業建築でした。
アニメで父ヒロシが「職業不詳のマイペースなサラリーマン風」として描かれ、店舗要素が完全にカットされた背景には、読者・視聴者の大多数が共感しやすい「一般的な昭和のサラリーマン家庭」へと舞台装置を抽象化する演出意図がありました。実在の自営業家庭特有の慌ただしさを取り払い、居間に定住する父親像を置くことで、あの独特のゆるやかな日常会話劇が成立したといえます。