世界最大のプロレス団体であるWWE(World Wrestling Entertainment)を見れば、グローバルなエンターテインメント産業がいかにヒールというギミックを洗練させてきたかが分かる。そこではもはや、善玉と悪玉の固定観念すら解体され、観客のリアクションに合わせてキャラクターが柔軟に変化する。
ソーシャルメディアが普及した現在、ファンはリング外のパーソナリティやストーリーの制作意図まで瞬時に把握する。そうした高度に情報化された空間では、ただ悪ぶるだけのギミックは通用しない。観客の価値観や社会のトレンドを鋭敏に嗅ぎ取り、巧みなマイクパフォーマンスで時代のタブーを突く知性が求められる。
ビジネスの観点からも、強力なヒールの存在はコンテンツの寿命を左右する最大の資産だ。対立構造が先鋭化するほど配信の視聴数は跳ね上がり、関連グッズの売上も伸びる。悪役を巧みにプロデュースできるコンテンツこそが、過密なメディア環境の中で生き残る力を得ている。