楽曲「家出」を深く味わう上で欠かせないのが、1979年3月21日に発表されたアルバム『親愛なる者へ』の存在です。この時期の中島みゆきは、大ヒット曲「わかれうた」で一躍トップアーティストへと登りつめた後、さらに作家としての深みと表現の幅を急速に拡張していた過渡期にあたります。
高度経済成長の喧騒が落ち着きを見せ、どこか虚無感や個人の孤立が浮き彫りになり始めた当時の日本社会。アルバム『親愛なる者へ』は、そうした時代背景の中で生きる人々の哀切を丁寧にすくい上げた名盤として知られています。そのB面(LP盤)の導入部として配置された「家出」は、レコードに針を落とした瞬間、張り詰めた緊張感とともに聴き手を物語の当事者へと引きずり込む力を持っています。