日本神話におけるツクヨミ(月読命)の夜の統治や、中国の嫦娥(じょうが)伝説、インドの月神ソーマなど、アジア圏には古くから月面都市や月の宮殿に関する伝承が豊富に存在します。しかし、『竹取物語』ほど高度に社会構造や倫理観の断絶を描き切ったテキストは他に例を見ません。
この特異な世界観は、現代の創作分野にも絶大な影響を与え続けています。代表的な例が「東方Project」シリーズにおける月の都の設定です。作中において月人は、死の概念(穢れ)を極端に嫌悪して地球から月へ移住した超古代の知的生命体として描かれ、圧倒的な科学力と排他性を持つ勢力として再構築されています。これは『竹取物語』が提示した「清浄=不老不死=感情の無機質化」という本質を極めて精緻に現代SF・ファンタジーへと昇華させた好例です。
また、SF文学やアニメーションにおいても「月に築かれたディストピア的超文明」というモチーフは繰り返されます。美しく非の打ち所がない理想郷でありながら、個人の感情や人間的な絆を一切許容しないシステムとしての月の都は、人類が抱く「永遠の生への憧れ」と「それがもたらす人間性の喪失」という永遠のジレンマを映し出す鏡として機能しています。