「40℃のお湯を使いたいなら、給湯器も40℃で沸かすのが一番無駄がない」という直感的な思い込みが、現代の住宅設備においては逆効果を生んでいます。その最大の理由は、現在の日本の一般家庭に広く普及している浴室設備、すなわちサーモスタット混合水栓の設定と給湯器側の連携メカニズムにあります。
TOTOやLIXILをはじめとする水栓金具メーカー推奨設定の技術マニュアルを確認すると、サーモスタット混合水栓は「使いたい吐水温度に対して、給湯器側の温度をプラス10℃〜15℃(つまり50℃〜60℃)に設定すること」を前提に精密設計されています。サーモスタット混合水栓の内部には形状記憶合金やサーモエレメントと呼ばれる感熱部品が組み込まれており、給湯管から入ってくる熱湯と給水管からの冷水を瞬時にミリ単位で混合比率を変えながら、設定された適温を保つ仕組みです。
もし給湯器リモコンを40℃に設定し、水栓の目盛りも40℃に合わせた場合、水栓内部のサーモスタットは「もっと熱いお湯を取り入れなければ設定温度に届かない」と判断し、内部の給湯弁を限界まで全開にします。その結果、冷水がほとんど混ざらない状態となり、わずかな水圧の揺らぎや外気温の低下だけで湯温が急激に上下する「温度ハンチング」が発生しやすくなります。これが、給湯器50度設定の真相であり、水栓の調温機能を100%発揮させるために温度差(温度マージン)が不可欠とされる物理的な理由です。
さらに見逃せないのが、給湯器60度設定のメリットです。給湯温度を60℃などの高温域に設定しておくと、手元で大量の水と混ぜて吐水するため、シャワーやカランから勢いよく吐水しても給湯器本体から送り出す湯量は少なくて済みます。これにより、配管内を通るお湯の絶対量が抑えられ、配管通過時の放熱ロスを低減しつつ、冬場でも水圧が落ちない快適なシャワー適正温度をキープできる構造が成り立っています。