かつて悲嘆プロセスといえば、エリザベス・キューブラー=ロスが提唱した「死の受容の5段階(否認→怒り→取引→抑鬱→受容)」が広く知られていました。しかし、臨床現場における悲嘆プロセス最新研究では、人間の回復過程はこのような階段を1段ずつ綺麗に登るような直線的なものではないという見解が定着しています。
現在、国際的なグリーフケア研究の標準となっているのが、マーガレット・ストローベとヘンク・シュットが提唱した「二重過程モデル(デュアルプロセスモデル:DPM)」です。この理論では、健全な喪失体験の心理的経緯において、人間は以下の2つの対極的な領域の間を振り子のように絶え間なく揺れ動く(オシレーションする)と定義されています。
1. 喪失志向(Loss-oriented):
涙を流し、故人や過去の思い出に浸り、痛みをじっくりと感じる時間。悲哀の感情を押し殺さず、喪失の現実を直視する処理作業。
2. 再生・回復志向(Restoration-oriented):
新しい生活タスクに対処し、仕事に集中し、新しい人間関係を築き、時には趣味に没頭して気を紛らわせる時間。未来に向かって前進する適応作業。
回復とは「過去を完全に忘れ去ること」ではありません。「今日は思い切り泣いて何もできなかったが、翌日は仕事に集中できた」「数か月経って元気になったと思った矢先に、命日や記念日で激しく落ち込んだ」――こうした前進と後退の反復運動こそが、心が致命的なオーバーヒートを起こさないよう守る防衛機構なのです。落ち込む日があるからといって、「後戻りしてしまった」と自分を責める必要は全くありません。