芥川龍之介『鼻』あらすじ完全解説!なぜ縮んだ鼻を人々は笑ったのか

芥川龍之介『鼻』あらすじ完全解説!なぜ縮んだ鼻を人々は笑ったのか

芥川龍之介『鼻』あらすじ完全解説!なぜ縮んだ鼻を人々は笑ったのかの要点や背景をコンパクトにまとめました。最新トレンドを一目で把握できます。

読者の多くが最も疑問に抱くのが、「長年のコンプレックスを解消した内供に対し、なぜ周囲は祝福せず、かえって激しく嘲笑したのか」という点です。芥川龍之介はこの不可解な人間心理の深層を、作中で次のように鋭利なメスを入れて解剖しています。

作中で芥川は、人間の心理に潜む相反する二つの感情を提示しました。他人が不幸や苦境に陥っているとき、人は同情の念を抱きます。ところが、その当事者が苦難を乗り越えて幸福を掴んだ瞬間、周囲の傍観者はなぜか言い知れぬ物足りなさを覚え、「もう一度あの不幸に突き落としてやりたい」とさえ願ってしまう。芥川はこの冷酷な心理的エゴイズムを「傍観者の利己主義」と名付けました。

内供が笑われた真相には、心理学的観点からも明確な3つの要因が絡み合っています。

  • 1. 心理的優越感の喪失(下向比較の破綻):周囲の人々は、地位が高い内供が「異様な大鼻」という致命的な欠陥を抱えている姿を見て、「自分の方が容姿において優れている」という無意識の安心感や優越感(下向比較)を得ていました。内供の鼻が普通になったことで、その都合の良い精神的足場が奪われ、反発心が芽生えたのです。
  • 2. シャーデンフロイデ(他人の不幸を喜ぶ感情)の裏返し:人間は、他人の不幸を無意識に消費して快感を得る心理傾向を持っています。他人のコンプレックス解消を素直に喜べず、むしろ「身の程知らずに必死に治療したあがき」を滑稽に感じて嘲笑へと変換しました。
  • 3. 内供自身の取り繕いが見透かされた滑稽さ:内供は「気にしていなかったが、弟子が勝手に治した」というポーズを取り続けていました。内心では必死に鼻を小さくしたかったという世俗的な執着とプライドの高さが周囲に見透かされ、その欺瞞(ぎまん)が周囲の失笑を買ったという心理描写も見逃せません。

周囲の人々は、内供の鼻そのものを笑っていたのではなく、「自尊心を守るために見苦しく足掻き、幸運を掴んだ気になっている内供の浅ましさ」を笑っていたのです。

鈴木 陽菜
著者

鈴木 陽菜

暮らしを豊かにする便利アイテムや時短アイデアを中心に、実用的な情報をお届けします。