漢字の使い分けにとどまらず、文化的イメージにおいても「龍」「竜」「ドラゴン」の間には決定的な隔たりが存在します。日本で親しまれている「たつ」の原点は、中国の古代神話に登場する東洋の神獣です。対して、ファンタジー作品などでおなじみのトカゲに翼が生えた巨獣は、キリスト教的世界観に根ざした西洋モンスターとしての「ドラゴン」です。
龍の由来と中国神話を紐解くと、龍は「三停九似(さんていきゅうじ)」と呼ばれる独特の姿を持っています。頭から腕、腕から腰、腰から尾という3つの屈曲(三停)を持ち、角は鹿、頭は駱駝、眼は鬼、体は蛇、腹は蜃、鱗は鯉、爪は鷹、掌は虎、耳は牛という9つの動物の特徴(九似)を兼ね備えた存在です。雲を呼び、雨を降らせる「水神」として農耕民族に崇拝され、国家の繁栄や皇帝の象徴とされてきました。
一方、西洋ドラゴンとの違いは、その霊性と倫理観にあります。西洋のドラゴン(Dragon)は、ラテン語の「draco(大蛇・怪物)」を語源とし、キリスト教圏では悪魔や邪悪、強欲の象徴として聖人に退治される敵役(アンチヒーロー)として描かれてきました。現代の日本語表現では、神々しい霊獣を表現する際に「龍」の字を当て、邪悪な怪物やドラゴンと竜の違いを曖昧に内包する一般的なモンスターには「竜」を充てるケースが多く見られます。