日本の音楽シーンを振り返ると、このかすれ声が持つ表現力は、数々の時代を定義するアイコンを生み出してきた。
日本のロック界の金字塔である桑田佳祐は、しゃがれた粘り気のあるハスキーボイスを武器に、ブルースやロックの泥臭さと日本的な情緒を融解させた。彼の声に含まれる力強い摩擦音は、楽曲に圧倒的なダイナミズムと哀愁を与える。
一方でJ-POPの構造そのものを塗り替えた宇多田ヒカルは、息を多量に含ませた繊細なウィスパーハスキーを駆使する。彼女の声帯から漏れ出る呼気は、複雑なR&Bのメロディラインに圧倒的な臨場感と深みをもたらし、リスナーの孤独感に寄り添う音響的テクスチャーを形成している。
さらに、現代の表現者として欠かせないのがAimerだ。一度聴けば忘れられない彼女の歌声は、声帯の傷というアクシデントを経て獲得された天賦の質感とされる。彼女の歌唱は、静寂の中に響く繊細な擦過音から感情が爆発する強い張り上げまで、かすれ声の振れ幅を最大限に生かした現代的なボーカルスタイルの到達点と言える。