うちはオビトがナルトの最大の鏡像(ミラーキャラクター)として描かれ、今なお多くの読者の胸を締め付けるのは、彼が「悪になりたくて悪になった男」ではないからです。
彼の行動原理の根底にあるのは、愛する仲間・のはらリンの死によって引き起こされた深刻なトラウマと解離性防衛です。心理学的に見れば、オビトは「リンのいない現実」という耐え難い苦痛を受け入れることができず、現実そのものを「偽物」「地獄」と定義することで自己の精神崩壊を防ごうとしました。
彼が唱えた「無限月読(月の眼計画)」は、世界征服の野望などではなく、すべての人間を傷つかない夢の世界へと閉じ込めるという、極端かつ歪んだ「救済願望」でした。「オレは誰でもない、誰でもいたくない」と語り、自身の名前すら捨てて仮面を被り続けた姿は、自己の主体性を放棄してでも絶望から逃れようとした人間の極限状態を示しています。
ナルトとの精神の対話によって最後に「うちはオビト」としての自分を取り戻し、カカシやナルトを庇って散っていった彼の最期は、人間がいかにして絶望に呑まれ、そしていかにして救済されるのかを描いた、物語文学としての至高の到達点と言えるでしょう。