高知市の中心街、昼夜を問わずジョッキの触れ合う音が鳴り響く「高知ひろめ市場」は、まさにカツオ食文化の震源地だ。その施設内で一際目立つ長蛇の列を形成しているのが、土佐佐賀港に船団を構える「明神丸」である。ガラス越しに巨大な火柱が立ち上がり、職人が全身で熱気を受け止めながらわら焼き鰹のたたきを焼き上げる光景は、観光客へのアピールを超えた神事のような厳格さを帯びている。
「ウチの船が獲ってきた鰹は、港に上がった時点で身の締まりが違う。だから氷水なんかに浸けて風味を飛ばしちゃ話にならない。藁の強火で一気に皮目をパリッと焼き、そのまま温かい身に天然塩を叩き込む。これが漁に出た男たちが船上で食っていた一番正直な味なんです」。現場の焼き場に立つベテラン職人は、汗を拭いながら手記に記された原体験のように力強く語る。
主要グルメサービスやSNS各所で発信される鰹の塩たたき評判口コミを数千件規模で精査すると、そこには顕著な傾向が見られる。旅行者の実に9割超が「今までスーパーで買っていた鰹のたたきは何だったのか」「ポン酢に戻れなくなった」と驚嘆の声を寄せる一方、真逆の意見として「塩の量が多すぎて高血圧になりそう」「冷えていない魚の刺身に脳が追いつかない」といった違和感を覚える感想もわずかに散見される。このギャップこそが、「キンキンに冷やしてポン酢で食べるもの」という既成概念がいかに強固だったかを如実に示している。