なぜネット上では、高齢出産と発達障害がこれほどまでに直接結びつけられ、過激な言説へと変貌してしまうのでしょうか。そこには情報を受け取る側の認知バイアスと、統計データの読み解きに関する盲点が存在します。
第一の盲点は、「診断精度の向上と社会的認知の広がり」です。過去数十年間で発達障害の診断基準は大きく見直され、以前なら「少し落ち着きのない子」「個性的でこだわりの強い子」として見過ごされていた軽度のグレーゾーンの子どもたちも診断を受けるようになりました。日本全体で発達障害の診断件数自体が増加トレンドにあるため、同時期に進んだ晩婚化・高齢出産と見かけ上の相関が強調されてしまいやすいのです。
第二の盲点は、自閉スペクトラム症における遺伝と環境の多因子性です。双生児研究などの膨大な追跡調査により、ASDの発症には80%前後の高い遺伝的関与(複数の遺伝子の組み合わせによる感受性)があることが分かっています。つまり、親が高齢であるかどうかという環境要因は、無数に存在するパズルのピースの1つに過ぎず、決定打ではありません。「高齢だから発達障害になった」という短絡的な因果関係の図式は、複雑な脳のメカニズムを単純化しすぎた俗説にすぎないのです。