二人の天才が出会ったとき、それは至高のコラボレーションであると同時に、激しい自我のぶつかり合いの始まりでもあった。1982年に正式に結婚した二人は、互いに第一線で活躍する独立したミュージシャン。YMOのサポートメンバーとしてもツアーに同行した矢野顕子と坂本龍一の対峙は、まさに音と音の格闘だった。
「二人分の溢れる才能がひとつの屋根の下にあることの凄まじさ」。当時の音楽関係者は二人の関係をそう回想する。互いの才能を誰よりも深く評価し合いながらも、一切の妥協を許さないプロフェッショナリズムが、時に私生活に重い緊張感をもたらした。二人の間に生まれた娘の坂本美雨もまた後にアーティストの道を歩むことになるが、当時の家庭内に流れていた空気は、刺激的でありながらも鋭く張り詰めたものだった。
長年の別居生活を経て2006年に離婚が成立するまで、二人の関係は単なる「夫婦」を超えた音楽的ライバルであり続けた。別々の道を歩んでからも互いの表現に対する敬意が消えることはなく、火花を散らし合った歳月はそれぞれの作品の中に刻み込まれている。