歴代の式守伊三郎が歩んだ道は、決して平坦なものではなかった。時には物待ったなしの緊迫した場面で、巨体が激突する土俵際の攻防を間近で裁かねばならない。足を踏み外せば大怪我に繋がるリスクを抱えながら、瞬時に軍配を挙げる覚悟が求められる。
特に昭和の時代に活躍した伊三郎の裁きは、今も古くからの好角家の間で語り草となっている。物言い(審判団による協議)がついた際にも、自らの見解を揺るがせることなく堂々と説明する姿は、行司の誇りそのものだった。判定の美学とは、単に勝敗を正しく当てることだけではない。流れるような所作、力士の呼吸に合わせた「はっけよい、残った」の呼び上げ、そして軍配を挙げる一動作の完成度。そのすべてが合一した時、土俵には神聖な美しさが宿るのだ。