数あるジャンヌ・ダルク絵画の中で、最も知名度が高く美術史上の最高傑作と評されるのが、ルーヴル美術館所蔵のアングルの名作『シャルル7世戴冠式のジャンヌ・ダルク』(1854年制作)です。新古典主義の巨匠ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルが描いたこの大作は、1429年7月にランス大聖堂で行われた歴史的瞬間を捉えています。
本作においてアングルは、歴史的リアリズムと政治的演出を高度に融合させました。画面中央に立つジャンヌは、銀色に輝く甲冑を身に纏いながらも、下半身には優美な赤いスカートを重ね着し、女性的な美しさと力強さを同居させています。右手に軍旗を掲げ、左手を祭壇に添えて天を見上げるその姿は、一介の少女というよりは国家を導く女神のようです。
この作品が描かれた1850年代のフランスは、ナポレオン3世による第二帝政が始まったばかりの時期でした。皇帝の正統性とカトリックの権威を民衆に印象付けるため、シャルル7世戴冠式のジャンヌ・ダルクという主題は絶好のプロパガンダ材料として機能したのです。