潜伏先ごとに名前も容姿も、さらには発する空気感すらもガラリと変える主人公・鏑木。工事現場の作業員、ライター、介護施設スタッフ……彼が演じ分けた「四つの顔」は、それぞれが別人のような生々しいリアリティを放っていた。横浜流星はこの役に挑むにあたり、劇的な減量と徹底した役作りを行っている。その鬼気迫る表情の変化に、劇場や画面の前で息をのんだ人は少なくないはずだ。
特筆すべきは、彼の「瞳」の演技である。追われる身でありながら、困窮する周囲の人々に手を差し伸べずにはいられない優しさ。その裏に潜む、いつ捕まるかもしれないという焦燥と哀しみ。セリフを削ぎ落とした静寂のなかで、瞳の揺らぎだけで感情のすべてを表現してみせた。その演技の深度こそが、観る者に「この男は本当に残忍な殺人犯なのか?」という強烈な疑念を抱かせ続ける原動力となった。