インターネット上の掲示板やSNSでは、時折「斬られ役なんて、誰でもできるエキストラの一種ではないか」といった浅薄な誤解が見受けられます。しかし、これは時代劇の現場力学と殺陣の構造を知らない完全な錯覚です。
映画における殺陣は、ミリ単位の距離感とコンマ数秒のタイミングが狂えば、模造刀であっても失明や骨折などの大事故につながる極めて危険なアクションです。真剣を模した重い樫の木刀やジュラルミン刀が猛スピードで振り下ろされるなか、主役の刃筋に合わせて自らの身体を投げ出し、かつ「あたかも本当に刀で両断されたかのように見せる」技術は、卓越した運動神経と長年の修練がなければ絶対に成立しません。
萬屋錦之介さん、松方弘樹さん、里見浩太朗さんといった昭和を代表する大スターたちが「福本を相手役に呼んでくれ」と名指しでオファーを出したのは、彼が「絶対に怪我をさせず、最高に格好いい間合いを作ってくれる職人」だったからです。福本清三さんは単なる背景ではなく、シーン全体の緊迫感とテンポを司る、実質的な「現場のコンダクター」だったのです。