1976年にシングル『涙ぐらし』で鮮烈なデビューを飾り、同年の日本レコード大賞新人賞をはじめ数々の賞を総なめにした角川博。甘いマスクと抜群の歌唱力で一躍スターダムへ駆け上がった彼が、歌手としての円熟期を迎えていた1986年(昭和61年)8月21日にリリースした勝負作が『あなたひとすじ』でした。
本作の制作陣には、当時の歌謡界を牽引していた超一流のクリエイターが集結しました。作詞を手掛けたのは、叙情的な情景描写と女性の情念を描かせたら右に出る者はいないたかたかし氏。作曲は、演歌の王道を行く哀愁のメロディラインで数々のヒットを放ってきた巨匠・岡千秋氏です。さらに、洗練されたストリングスと情感あふれる編曲を施した斉藤恒夫氏の手腕が加わり、完璧な音世界が構築されました。
歌詞に描かれているのは、愛する男性にすべてを捧げ、運命を共にする覚悟を決めた女性の一途な想いです。逢えない夜の切なさや、世間の目を忍ぶ影のある恋情が、無駄のない言葉選びで見事に浮き彫りにされています。当時の関係者の証言によると、角川博自身もレコーディングに際して「単に声を張り上げるのではなく、胸の奥でつぶやくような吐息のニュアンス」を徹底的に追求したと伝えられています。