フラダンスの発表会や地域のサークルで必ずと言っていいほど耳にする「月の夜は」ですが、その成り立ちにはハワイと日本の音楽史が交錯する深いドラマが存在します。フラダンスの定番曲として親しまれる「月の夜は」の歴史と背景を紐解くと、この楽曲が単なるリゾートソングにとどまらない普遍的な芸術性を持っていることが分かります。
この楽曲の原曲は、1930年代後半にハワイの著名な作曲家ロバート・アレクサンダー・アンダーソンによって手がけられたハワイアンの名曲『Sophisticated Hula(ソフィスティケイテッド・フラ)』です。「Sophisticated(洗練された、都会的な)」というタイトルの通り、伝統的なカヒコ(古典フラ)の枠を超え、当時ホノルルの高級ホテルやアメリカ本土のナイトクラブで大流行していたモダンなアウアナ(現代フラ)の空気を色濃く反映した洒脱なスウィングナンバーでした。
昭和30年代、日本国内で巻き起こった空前のハワイアンブームの中で、作詞家の門田ゆたからによって日本語詞が与えられ、日野てる子やエセル中田、大橋節夫とハニー・アイランダースといった名手たちが歌い上げたことで「月の夜は」は爆発的なヒットを記録しました。「月の夜は」の歌詞の意味と解説を深く掘り下げると、原曲が持つ軽快なユーモアに対して、日本語版では「月光に照らされる波打ち際」「南国の夜風に揺れる椰子の木」「胸に秘めた切ない慕情」といった、日本人の琴線に触れる極めて情緒的な情景が描かれている点が大きな特徴です。
ハワイの陽気なリズム感と、日本の歌謡曲が持つ優美な詩情が見事に融合したからこそ、半世紀以上の時を経た現代でも、多くのダンサーが感情を込めて踊り継ぐ特別な1曲となっているのです。