力士の髪を芸術的な大銀杏や端正な丁髷へと昇華させるのが、日本相撲協会に所属する専属の職人「床山(とこやま)」です。相撲部屋や巡業先に帯同し、力士の髷を結うことだけを専門とする彼らは、力士たちにとって最も身近で頼れる裏方といえます。
床山は日本相撲協会の職務規定により定員が約50名と厳しく定められており、階級制度が敷かれています。見習いの「五等床山」から始まり、長年の修業と技術の向上を経て最高位の「特等床山」へと昇進します。横綱や大関の大銀杏を結うことができるのは、原則として豊富な経験を持つ一等床山や特等床山などのベテラン職人に限られています。
床山が使用する道具にも、伝統の職人技が息づいています。主に以下のような専用道具を用います。
- 前櫛・荒櫛(まえぐし・あらぐし):髪全体のもつれをほどき、流れを整える木製の櫛。
- 筋櫛(すじぐし):鬢付け油を均一に行き渡らせ、美しい毛筋を整えるための細かな櫛。
- 元結(もっとい):和紙を細く縒(よ)って作られた強靭な紐。髷の根元を固く縛り上げるために使用。
- 髷棒(まげぼう):大銀杏の先端をふっくらと広げ、美しい扇形を成形するための先端が平たい竹製の棒。
結髪の現場では、床山は力士の背後に立ち、膝を使って力士の首元を支えながら、全身の体重をかけて元結を締め上げます。頭皮が引っ張られる強い痛みが伴いますが、この強固な結びがあるからこそ、激しい立ち合いでも髷が崩れません。熟練の床山になると、力士一人ひとりの頭の形、毛量、髪のクセ、さらには当日の天候や湿度までを指先で瞬時に判断し、わずか10分足らずで見事な大銀杏を結い上げます。