静寂の池にたたずむ可憐な姿とは裏腹に、睡蓮には古くから「滅亡」という背筋の凍る花言葉が定着しています。可憐な水草がなぜ国家や生命の終末を意味する言葉を背負わされたのか、その発端は紀元前の古代神話と宗教観にまで遡ります。
最大の根拠とされているのが、古代ギリシャ神話に登場する水の妖精「ニンフ(ニュンペー)」の悲劇です。英雄ヘラクレスに恋い焦がれたニンフは、その想いが受け入れられず冷酷に捨てられた絶望から、ナイル川の水底へと身を投げました。非業の死を遂げた彼女を憐れんだ神々が、その遺体を水面に咲く睡蓮の花へと変えたと伝えられています。学名であるNymphaea(ニンファエア)もこの妖精ニンフに由来しており、「報われない愛によって身を滅ぼした存在」「水底の死そのもの」を象徴する花として、西洋文学や伝承の中で「滅亡」という不気味な意味が語り継がれるようになりました。
もうひとつの決定打は、古代エジプトにおける太陽信仰と冥界の儀礼です。朝に花を開き、夕刻になると花を閉じて水中に沈む睡蓮の習性は、エジプト神話において太陽神ラーの誕生と日没、すなわち「生と死の永遠のサイクル」を象徴していました。ファラオの墓所やミイラの装飾、副葬品として睡蓮が多用された歴史から、西洋の図像学(イコノロジー)においては「現世の栄華の終焉」「王朝の衰亡」を暗示す象徴として定着した経緯があります。決してオカルト的な呪いではなく、古代人が生と死の境界を見出した厳粛な文化遺産が、現代に「怖い花言葉」として伝わっているのが実態です。