山下達郎が作詞・作曲・編曲のすべてを手掛け、2009年8月19日にシングル発売された「僕らの夏の夢」。この楽曲を注意深く聴き込むと、映画のストーリーを単になぞるだけのタイアップソングとは一線を画す、恐ろしいほどの構成美と作家性が浮き彫りになります。
歌詞の冒頭に描かれるのは、まぶしい木漏れ日、乾いた風、そして誰の心にもある「いつか忘れてしまうかもしれない、けれど決して消えない記憶」の風景です。これは、主人公・小磯健二とヒロイン・篠原夏希が経験した数日間の大冒険であると同時に、90歳で世を去った当主・陣内栄(栄おばあちゃん)が遺した「人と人とのつながり」そのものを象徴しています。
制作当時、山下達郎は細田監督の絵コンテから立ち上る生の息吹を逃さないよう、アレンジにも綿密な工夫を凝らしました。デジタルネットワークOZの冷徹で広大な電脳世界と対比させるように、アコースティックピアノと生楽器の温かな響き、そして幾重にも重ねられた山下達郎特有の重厚なコーラスワークを採用。無機質なサイバー空間の危機を乗り越えた先にある、泥臭くも温かい人間の体温を音として表現し尽くしました。
歌詞の中盤に登場する「命のめぐり」を示唆するフレーズは、劇中で栄おばあちゃんが親族一同に命じた「あんたたちならできる」「生きることをあきらめないで」という遺志と完璧にリンクしています。夏の美しさは、それが必ず終わりを迎えるという儚さと背中合わせです。「僕らの夏の夢」というタイトルが示す夢とは、単なる幻影ではなく、魂の奥深くに刻み込まれ、次世代へと受け継がれていく永遠の希望に他なりません。