「的屋は儲かる」という言説がネットや噂話で頻繁に語られる背景には、屋台で扱われる定番商品の圧倒的な原価率の低さがあります。
例えば、祭りの定番である「かき氷」は、氷塊とシロップ、カップ、スプーンを合わせても1杯あたりの原価は15円〜30円程度です。これを500円で販売した場合、原価率は5〜6%前後に留まります。同様に「綿あめ」はザラメ糖とキャラクター袋で原価数十円、「ベビーカステラ」や「焼きそば」といった粉もの類も原価率は10〜15%程度に収まります。射的やくじ引きなどの遊戯系に至っては、景品の仕入れ原価を緻密にコントロールすることで、80%以上の粗利益を確保できる設計になっています。
大規模な神社の大祭や花火大会では、人通りの多い好立地に構えた人気屋台が1日で30万〜80万円の売上を叩き出すケースも珍しくありません。数日間の祭礼期間で数百万円の現金を売り上げる光景が、「的屋=高収入」というイメージを決定づけています。
しかし、業界関係者の証言や決算資料を精査すると、年間の実質手取り額には厳しい現実が見えてきます。
的屋の商売は典型的な季節変動ビジネスです。収益の大部分は「正月の初詣」「春の花見」「夏祭り・花火大会」「秋の例大祭」という特定の繁忙期に集中します。年間を通じて実際に露店を稼働できる日数は、専業の親方クラスであっても年間60日〜100日程度に過ぎません。雨天や台風によるイベント中止は即座に売上ゼロを意味し、仕入れた生鮮食材の廃棄損を直撃します。
さらに、屋台の骨組み・鉄板・プロパンガス機器などの機材維持費、保管用倉庫の賃料、長距離移動に伴うトラックの燃料費・高速代、人件費、そして出店ごとの場所使用料・清掃費が引かれます。これらを差し引いた結果、専業の親方クラスで年収500万〜800万円前後、中堅層で300万〜450万円程度に落ち着くのが現実的な相場とされています。一部の広域で大規模な庭場を統括する幹部層が1,000万円を超える利益を得る一方で、天候不順が続いた年は赤字に転落するリスクと隣り合わせの構造です。