江戸の寺院制度が解体された後も、「駆け込み寺」という象徴的な看板は消滅しませんでした。それどころか、血縁や地域コミュニティの解体が進んだ令和の今、その重要性はかつてない高まりを見せています。なぜなら、現代社会における公的支援システムには、どうしても埋められない「制度の壁・縦割りの谷間」が存在するからです。
現代において、追い詰められた人々が駆け込み寺を求める理由は実に多岐にわたります。配偶者や交際相手からの激しいモラルハラスメント・DV、親からの虐待や宗教的抑圧、闇バイトや詐欺被害への巻き込まれ、さらには身元保証人がいないことによる貧困や孤立など、複合的な危機が重なった結果です。行政の窓口――例えば福祉事務所や警察、配偶者暴力相談支援センター――は、法律と予算の枠組みに基づいて運営されているため、「確実な被害の証拠がない」「管轄の自治体が異なる」「加害者との法的な利害関係が整理されていない」といった理由で、即座の保護に踏み切れないケースが後を絶ちません。
この「今夜泊まる場所がない」「今日、加害者に殺されるかもしれない」という切迫した瞬間において、身元や管轄を問わず即座にシャッターを開けて話を聞き、シェルターへ招き入れる民間組織こそが、現代の駆け込み寺と呼ばれる所以です。行政が動くための「前段階」として命を保護し、法的な手続きや公的支援へと繋ぎ直す役割を担うことで、彼らはセーフティネットの最前線として機能し続けています。