名曲『上を向いて歩こう』が世に送り出された発売年は1961年(昭和36年)10月15日です。東芝音楽工業(現・ユニバーサル ミュージック)からシングル盤としてリリースされる以前、NHKの人気バラエティ番組『夢であいましょう』の「今月のうた」コーナーで披露されたことがすべての始まりでした。
この楽曲を生み出したのは、日本のエンターテインメント界を牽引した黄金の三人組、通称「六八九(ろく・はち・きゅう)トリオ」です。作詞の永六輔さん、作曲の中村八大さん、そして歌い手の坂本九さん。当時、ジャズピアニストとして名を馳せていた中村八大さんは、それまでの日本歌謡曲の定型を打ち破るモダンなコード進行とジャズのグルーヴを楽曲に注ぎ込みました。
特筆すべきは、坂本九さんの独特なボーカルスタイルです。ロカビリー出身である坂本九さんは、言葉を一音ずつ跳ねさせるスタッカートや、音をしゃくり上げるようなヒーカップ唱法を大胆に採用しました。当初、作詞の永六輔さんは「歌詞の発音を崩して歌っている」と難色を示したものの、この型破りな表現力こそが、楽曲に唯一無二のリズム感と親しみやすさを吹き込む決定打となったのです。