芸能人の私生活に関する噂において、最も陥りやすい罠が「演じた役柄の印象による記憶のすり替え」です。特に日本の2時間ドラマ文化においては、同一のキャストが20年〜30年にわたり同じ役柄を演じ続けるケースが多く、視聴者の潜在意識に「フィクションの家族関係=現実の家族関係」という認知の歪みをもたらします。
名取裕子さんの場合、『法医学教室の事件ファイル』で息子・愛介役を演じた佐野泰臣さんとの関係性がその典型例です。佐野さんは1992年の第1作放送開始当時、わずか8歳の子役でした。そこから30代半ばの大人の男性へと成長するまでの全過程を、名取さんは劇中で母親として見守り続けました。撮影現場でも名取さんは佐野さんを本当の息子のように温かく見守り、佐野さんもまた名取さんを「芸能界の母」として深く敬愛していることが複数のインタビューで語られています。
この強固な信頼関係とリアリティあふれる演技が、長年の視聴者にとって「名取裕子には息子がいる」という強烈な印象を残すことになりました。ネット上の検索サジェストに残る「名取裕子 息子」という言葉は、名取さんの女優としての圧倒的な力量が生み出した「名誉ある誤解」であるといえます。