マイケルが残した数々の伝説的なムーブの中でも、世界中を驚愕させたのが楽曲『スムーズ・クリミナル』で見せた「ゼロ・グラビティ(Anti-Gravity Lean)」です。直立した状態から足首だけを支点にし、身体を前方に45度近く傾斜させてから何事もなかったかのように元に戻るこのパフォーマンスは、まさに重力を無視したかのような超絶技巧でした。
このゼロ・グラビティの仕組みは、マイケル自身とスタッフが共同開発し、米国特許(US Patent 5,255,452)を取得した特殊な仕掛けにあります。ステージ床からせり出す特殊なペグ(ピン)に、靴底のV字型のスロットを引っ掛けて固定する構造です。
しかし、仕掛けが存在するからといって誰にでも真似できるわけではありません。45度の前傾姿勢を支え、自力で引き戻すためには、並外れた体幹の強さ、強靭なふくらはぎと背筋の筋力、そして完璧なバランス感覚が不可欠です。テクノロジーと極限の肉体訓練が融合したからこそ成立した、本物のプロフェッショナリズムの結晶でした。